Core Ultra 7 155Hのベンチマーク
ここでは、ノートPC向けのインテルプロセッサーCore Ultraシリーズの1つ「Core Ultra 7 155H」の各種ベンチマークスコアを掲載します。
Core Ultraプロセッサーの大きな特長は3つあり、1つ目は従来のPコア、Eコアとは別に、低消費電力版E-core(LP E-core)を搭載することで、アイドル時や低負荷時の消費電力を抑えることができる点、2つ目はAI専用プロセッサーのNPUを搭載し、生成AIなどが高速化した点、3つ目はIntel Arc GPUを搭載し、グラフィック性能が向上している点です。
プロセッサーの仕様
ノートPC向けプロセッサーのCore Ultraシリーズは、下表のように、大きく分けるとHシリーズとUシリーズに分類されます。
Hシリーズは、Processor Base Power(PBP)が28Wと高めで、GPUにIntel Arcを搭載し、比較的性能の高いノートPCに搭載されます。
Uシリーズは、9Wまたは15WのPBPで、GPUには従来のIntel Graphicsを搭載し、薄型のノートPCや、タブレットPC、低価格帯のノートPCに搭載されることが多いと思われます。
今回テストする「Core Ultra 7 155H」は、この2つのうち、Hシリーズのプロセッサーとなっています。
Processor Base Power |
Maximum Turbo Power |
GPU | |
Hシリーズ | 28W | 64Wまたは115W | Intel Arc GPU |
Uシリーズ | 9W 15W |
30W 57W |
Intel Graphics |
2023年12月22日執筆時点で発表されているHシリーズのプロセッサーは以下の通りで、「Core Ultra 7 155H」は、Pコアを6つ搭載し、GPU Xeコアも8つで、 性能は高めです。
Core Ultra 9 185H | Core Ultra 7 165H | Core Ultra 7 155H | Core Ultra 5 135H | Core Ultra 5 125H | |
P / E / LP Eコア | 6 / 8 / 2 | 6 / 8 / 2 | 4 / 8 / 2 | ||
Pコア最大クロック | 5.1GHz | 5.0GHz | 4.8GHz | 4.6GHz | 4.5GHz |
Eコア最大クロック | 3.8GHz | 3.6GHz | |||
L3キャッシュ | 24MB | 18MB | |||
GPU | Intel Arc GPU | ||||
GPU最大クロック | 2.35GHz | 2.3GHz | 2.25GHz | 2.2GHz | |
GPU Xe コア | 8 | 7 | |||
Neural Processor | Intel AI Boost | ||||
PBP | 45W | 28W | |||
MTP | 115W | 64Wまたは115W |
※PBP:Processor Base Power
※MTP:Maximum Turbo Power
ベンチマークの計測に利用したノートPC
今回、ベンチマークに使用したノートPCは、次のノートPCです。
このノートPCに、Prime95で全CPUコアの使用率が100%になる高い負荷をかけたときのCPU電力の推移は、次の図の通りです。なお、このノートPCは、動作モードを変更することができ、デフォルトでは「通常」モードですが、今回は「パフォーマンス」モードへ変更してテストしています。
安定動作時のCPU電力は約47Wと高めでした。Core Ultraシリーズを試すのは今回が初めてなので、他と比べて高い数値なのか、低い数値なのかわかりませんが、PBPが28Wであることを考えると、高い数値で推移しているのではないかと思われます。
他のノートPCではここまでのCPU電力が出るかはわからない(同じくらいのベンチマークスコアが出るかは分からない)ので、そのあたりを考慮して、記事を読んでいただければと思います。
CPU関連のベンチマークスコア
以下、各種ベンチマークソフトのスコアおよび他のプロセッサーと比較したグラフを掲載します。
グラフは、Core Ultra 7 155Hのスコアを緑色にしています。
CINEBENCH R23
まずは、CPUレンダリングを行いCPU性能を評価するベンチマークソフト、CINEBENCH R23のスコアを掲載します。
Core Ultra 7 155Hは、今回CPU電力が高めに出ていたこともあり、PBP:45WのCore i7-12700Hとほぼ同等のマルチコアのスコアが出ていました。
Core i7-1360PやCore i5-1340Pと比較すると、40%以上高いマルチコア・スコアです。
CINEBENCH 2024
次は、CINEBENCHの最新版、CINEBENCH 2024のスコアです。
こちらは、マルチコア性能については、第13世代のCore i7-13700Hに近い高めのスコアでした。シングルコア性能はCore i7-13700Hほどではありませんが、Core i7-1360Pを大きく超えるスコアでした。
Geekbench 6
続いて、拡張現実や機械学習などの最先端の処理を取り入れているクロスプラットフォームのベンチマークソフト、Geekbench 6のスコアを掲載します。CINEBENCHは、処理を開始してから10分経過後にスコアを計測するのに対し、Geekbenchはすぐにスコアを計測し始めるので、Boost時のCPU電力が高めのプロセッサーのほうがスコアが出やすくなっています。
こちらは、シングルコアのスコアはやや低めでしたが、マルチコアのスコアに関してはPBP:45WのCore i7-13700Hとほぼ同じで、非常に高いスコアでした。
PassMark Performance Test 11
続いて、圧縮、暗号化、物理シミュレーションなどを含む数学的計算を行うPassMark Performance Test 10.0のスコアを掲載します。
Core Ultra 7 155HのPassmarkのCPUスコアは、Core i7-13700H以上でした。Core i7-1360Pと比較した場合は、約37%も高いスコアでした。
グラフィックス関連のベンチマークスコア
次はグラフィックス関連のベンチマークスコアを掲載します。
なお、グラフィックスはメインメモリの速度にも影響されますが、今回のPCに搭載されていたメモリは、LPDDR5-6400と高速です。
3DMark Night Raid
3DMark Night Raidのスコアは以下の通りです。「グラフィックスのスコア」の部分が、グラフィック性能を評価する指標となります。
Core Ultra 7 155Hは、GeForce GTX 1650よりは低いものの、GeForce MX550の外部グラフィックスとほぼ同等のスコアが出ていました。
また、Core i7-1360Pと比較すると、約60%も高いスコアになっています。
~ グラフィックス性能の評価 ~
続いて、3DMark Time Spyの結果です。Time Spyの場合、Core Ultra 7 155Hは、GeForce MX550よりも36%も高いスコアで、GeForce GTX 1650とほぼ同等でした。
~ グラフィックス性能の評価 ~
ゲーミング性能
以下、ゲームをしたときのフレームレートを掲載します。比較的軽めのゲームを選んで検証しています。
今回、テストに用いたPCの画面比が16:10だったので、解像度は1920x1080ではなく1920x1200で計測しています。また、CPU内蔵グラフィックスでゲームをする場合、数分経つとフレームレートが大きく落ちるケースがあります。そのため、10分くらい普通にゲームをしたりベンチを回したりした後、実際にフレームレートを計測しています。
なお、ゲームについては、後日もっと多くのタイトルでフレームレートを計測し、別記事で紹介する予定です。
ファイナルファンタジー 14 暁月の終焉
「ファイナルファンタジー 14 暁月の終焉」のベンチマークのスコアを掲載します。標準品質なら81 fpsという比較的高いフレームレートが出ています。MMORPGなら十分楽しめるフレームレートです。
ただ、(解像度がやや異なっていますが)Core Ultra 7 155HのIntel Arc GPUは、GeForce GTX 1650よりも30%くらい低いスコアでした。また、GeForce MX550よりも20%くらい低いスコアでした。
ファイナルファンタジー 14 暁月のフィナーレ(DX11)
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解像度 | 品質 | 平均 fps |
1920x1200 | 標準品質 | 81 fps / 11535 |
高品質 | 61 fps / 8755 | |
最高品質 | 46 fps / 6604 |
PSO2 ニュージェネシス
PSO2 ニュージェネシスは、「最低」のグラフィック品質であれば、こちらも十分なフレームレートが出ていました。
ただ、こちらも、Core Ultra 7 155HのIntel Arc GPUは、GeForce GTX 1650の30%くらい低いスコアでした。
PSO2 ニュージェネシス
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解像度 | 品質 | 平均 fps |
1920x1200 | 最低 | 92 fps |
中 | 54 fps | |
ウルトラ | 30 fps |
フォートナイト
フォートナイトについては、レンダリングモードを「パフォーマンス - 低グラフィック忠実度」にして計測しました。バトルロワイヤル ソロで、数分間プレイしてみたところ、平均フレームレートは80 fpsとそこそこ出ていましたが、視点を大きく動かすとフレームレートが大きく落ちてカクつくことがあり、やりにくかったです。3D解像度や描画距離などの設定をもっと下げると多少マシになりますが、画質が大分悪くなりますし、カクつきも大きくは改善しません。フォートナイトのようなTPS/FPSゲームをするなら、もう少しスペックの高いPCがいいでしょう。
フォートナイト [チャプター5 シーズン1]
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解像度 | その他設定 | 平均fps |
1920x1200 | 3D解像度:100% メッシュ:高 描画距離:最高 |
80 fps |
原神
原神は、デフォルトの中設定でも十分なフレームレートが出ており、実施にプレイしても特にカクついたりすることなくゲームができました。
原神
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解像度 | グラフィック品質 | 平均fps |
1920x1200 | 最低 | 60 fps(最大) |
中 | 58 fps | |
高 | 48 fps |
ARK: Survival Evolved
ARK: Survival Evolvedは、低設定であれば、十分ゲームを楽しめます。中設定でも、多少重く感じるときもありますが、できないことはありませんでした。
ARK: Survival Evolved
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解像度 | 品質 | 平均fps |
1920x1200 | 低設定 | 85 fps |
中設定 | 49 fps |
VALORANT
VALORANTについては、元々軽いゲームということもあり、高い平均フレームレートが出ていました。カジュアルにゲームをするなら、問題ないフレームレートが出ています。
VALORANT
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解像度 | 品質 | 平均fps |
1920x1200 | 低設定 | 175 fps |
高設定 | 111 fps |
ドラゴンクエストX
ドラゴンクエストXについては、高いスコアでした。こちらは問題なくできるでしょう。
ドラゴンクエストX
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解像度 | 品質 | スコア |
1920x1080 | 最高品質 | 18885(すごく快適) |
クリエイターソフトの処理時間
次に、クリエイター向けソフトで計測した各種処理時間を掲載します。
Adobe Lightroom Classic CCによるRAW現像時間
Adobe Lightroom Classicを使い、100枚のRAW画像について、露光量、シャドウなどのパラメーターを変更し、書き出した時の時間は下表の通りです。
Core i7-1360Pよりも大分速かったです。現像作業自体も快適でした。
:レビュー機で計測したスコア(他のスコアは別のPCで計測した代表値)
Adobe Premiere Pro CCによる書き出し時間
Adobe Premiere Proで、FHD/30pの動画を簡単に編集して書き出した時の時間は下表の通りです。
GeForce MX550搭載PCと比べると遅いですが、Core i7-1360P搭載PCよりは速かったです。FHD動画であれば、編集自体もストレスなくできました。NPUには対応している様子はまだありませんでしたが、対応するようになればGPU+NPUの協調で、レンダリングなどがもっと高速化するかもしれません。
Adobe Photoshopの処理時間
Photoshopの中では重い処理であるニューラルフィルターを実行しました。グラフィックス性能が高めなので、GPU支援を使って処理する「スーパーズーム(x2)」の処理が速かったです。ただ、JPEGのノイズを削除の処理いついてはそれほど速くありませんでした。
Core Ultra 7 155H | 参考 Core i7-1360P |
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ニューラルフィルター(肌をスムーズに) | 約2秒 | 約3秒 |
ニューラルフィルター(スーパーズーム(x2)) | 約4分6秒 | 約4分16秒 |
ニューラルフィルター(JPEGのノイズを削除) | 約3分13秒 | 約2分41秒 |
TMPGEnc によるエンコード時間
TMPGEnc Video Mastering Works 7によるソフトウェアエンコードにかかった時間は次の通りです。なおこの処理は、CPUで処理します。
Core i7-13700Hに近い速さでエンコードできていました。また、Core i7-1360Pと比較しても大分速かったです。
(ソフトウェアエンコード)
次に、ハードウェアエンコードの処理時間ですが、こちらはかなり速かったです。なお、この処理にNPUは使われていません。
(ハードウェアエンコード)
消費電力
Core Ultra 7 155Hを搭載したAcer Swift Goで、アイドル時のPC全体の消費電力を計測したところ、約6Wでした。また、同じ解像度のディスプレイに、Core i5-1335Uを搭載したThinkPad X1 Carbonの消費電力を計測したところ、こちらも約6Wでした。機種が違うので使われているパーツが異なることから単純な比較は出来ませんが、そこまで消費電力が下がった感じはしませんでした。
Acer Swift Go (Core Ultra 7 155H) |
ThinkPad X1 Carbon (Core i5-1335U) |
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アイドル時の消費電力 | 約6W | 約6W |
※どちらもディスプレイ解像度は2240x1400
次に、Acer Swift Goの動画再生時のバッテリー駆動時間を計測しましたが、14時間40分と長めのバッテリー駆動時間でした。
ThinkPad X1 Carbonとも比較してみましたが、この2機種はバッテリー容量が異なるので、単位バッテリー容量あたりのバッテリー駆動時間を比較してみると、若干ですがAcer Swift Goのほうが長かったです。今回のテストでは、動画再生には主にGPUを使っている感じもありましたが、タスクマネージャーを見ると、OSなどの処理も含めてLP E-coreも動いていたので、LP E-coreの効果があるのかもしれません。
Acer Swift Go (Core Ultra 7 155H) |
ThinkPad X1 Carbon (Core i5-1335U) |
|
動画再生時のバッテリー駆動時間 ※ | 14時間40分 | 11時間28分 |
バッテリー容量 | 65W | 57W |
単位バッテリー容量当たりの バッテリー駆動時間 |
13.5分 | 12.1分 |
※ 画面輝度は約120cd/m2でテスト
NPUの性能について
NPUの性能を確認するにあたって、こちらで公開されているOpenVINO AI Pluginsを使ったGIMPによるAI画像生成を試そうとしましたが、うまく動かなかったので、同じテストをしているtom's HARDWAREの検証結果を、下に一部抜粋します。この記事でテストに用いているのと同じAcer Swift Goを用いています。
CPUのみで画像を生成したときに比べ、NPUで画像を生成すると、約半分の時間で終わっています。
また、GPUとNPUの両方を使って動かすとさらに約半分の時間で終わっており、非常に高速です。
ただし、GPUで行ったほうが、NPUで行ったときより大分速いです。
また、同サイトに掲載されているAudacityを使った音声からの文字起しや、ノイズ抑制のテストなどについては、AMDプロセッサーのCPUでの処理のほうが速いという結果もありました。
このように、GPUやAMDプロセッサーで処理したほうが速いケースもありますが、NPUで処理できる場合は、CPUにはほぼ負荷がかかっていないので、他の作業をストレスなく行うことができるというメリットはあるでしょう。
また、執筆時点だと、プラグインをインストールしたり、ベータ版のソフトを使ったりしないと、NPUを利用した処理を行うことは出来ませんが、そのうち、メジャーな画像編集ソフトなどが対応してくると思うので、そうなればCore Ultraを搭載したPCは、より便利になると思います。
まとめ
今回、Core Ultra 7 155Hのベンチマークスコアなどを計測しました。
CPU性能はマルチコアもシングルコアも高いベンチマークスコアが出ていました。ベンチマークにもよりますが、マルチコアであれば、Core i7-1360Pより約40%高いスコアが出ていることが多く、Core i7-13700Hに近いスコアが出ることもありました。
Intel Arc GPUのグラフィック性能についても、3DMark Night Raidでは、従来のIntel Xe Graphicsと比べて60%くらいスコアが高く、GeForce MX550と同等程度のスコアが出ていました。
実際のゲームにおいては、GeForce MX550より20%ほど低いスコアでしたが、低めのグラフィック設定にすれば、十分なフレームレートが出るタイトルもありました。
NPUについては、AI関連の処理が高速化すると共に、CPUに負荷をかけずに済むのでメリットが大きいです。まだ対応ソフトが少ないので、今後に期待です。
今回、CPU電力が高めに出ていたため、ベンチマークスコアが高かった可能性もありますが、割と薄型のPCでも高めのCPU電力だったので、CPU自体の発熱は少ないほうなのかもしれません。だとすれば、他のPCでも十分高いパフォーマンスが出る可能性があります。他のPCでも随時別記事で、ベンチマークスコアを掲載していきます。
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