Ryzen AI 9 HX 370のベンチマーク
更新日:2024年8月1日
ここでは、AMD Ryzen AI 300シリーズプロセッサーの1つの「Ryzen AI 9 HX 370 」の各種ベンチマークスコアを掲載します。
最大 50 TOPSのNPUを搭載し、CPUおよびGPU性能も高く、高性能ノートPCで採用されるプロセッサーです。ただ、現状ではRyzen AI 300シリーズのNPUを利用しているアプリはほとんどないため、ここでは主にCPUおよびGPU性能に関するベンチマークスコアを掲載します。
プロセッサーの仕様
Ryzen AI 300シリーズのラインナップは、下表の通りです。
CPUは「Zen 5」のコアと、インテルCPUで言えば高効率コアにあたる「Zen 5c」のコアのハイブリット構成で、GPUはRDNA 3.5世代のRadeon 800Mシリーズ搭載。さらにAI処理用のNPUを搭載しています。
これらのプロセッサーのうち、今回ベンチマークを計測したのが真ん中の性能の「Ryzen AI 9 HX 370」です。NPUパフォーマンスが若干落ちるものの、それ以外は上位のRyzen AI 9 HX 375とほぼ同じ性能です。
Ryzen AI 300シリーズ
Ryzen AI 9
HX 375
Ryzen AI 9 HX 370
Ryzen AI 9 365
コア / スレッド数
12 / 24
10 / 20
アーキテクチャ
Zen 5 ×4
Zen 5 ×4
Zen 5c ×8
Zen 5c ×6
最大クロック
5.1GHz
5.0GHz
ベースクロック
2GHz
L2 / L3キャッシュ
12MB / 24MB
10MB / 24MB
デフォルトTDP
28W
cTDP
15-54W
グラフィックス・モデル
Radeon 890M
Radeon 880M
GPUコア数
16
12
NPUパフォーマンス
最大 55 TOPS
最大 50 TOPS
Total Processor Performance
最大 85 TOPS
最大 80 TOPS
最大 73 TOPS
ベンチマークの計測に利用したノートPC
今回、ベンチマークの計測に使用したノートPCは、ASUSの次の2機種です。
このノートPCに、CPU使用率が100%になる高い負荷をかけたときのCPU電力は、次の図の通りです。なお、どちらのPCも高いパフォーマンスが出るモードの設定で、計測しています。
Ryzen AI 9 HX 370のデフォルトTDPは28W、cTDPは15-54Wですが、TUF Gaming A14は約80Wと非常に高いCPU電力 で推移しています。一方、Zenbook S 16は、デフォルトTDPの値に近い30W前後のCPU電力で推移しています。
このように、機種によって動作するCPU電力に大きなが差がある ので、当然パフォーマンスもかなり違ってきます。
高負荷時のCPU電力の推移
Prime95で、全てのCPU使用率が100%になる負荷をかけたときのCPU電力の推移
CPU関連のベンチマークスコア
まずはCPU関連のベンチマークソフトのスコアと他のプロセッサーと比較したグラフを掲載します。
CINEBENCH R23
まずは、CINEBENCH R23のスコアを掲載します。
TUF Gaming A14に搭載されていたRyzen AI 9 HX 370は、Core i7-14700HXを超える高いマルチコアスコアが出ていました。シングルコアについても、Ryzen 9 7945HXを上回るスコアでした。
一方、Zenbook S 16のRyzen AI 9 HX 370は、3分の2ほどの数値しか出ませんが、それでもCore Ultra 7 155Hよりは高いマルチコアスコアでした。
CINEBENCH R23
~ CPU性能の評価 ~
TUF Gaming A14
Zenbook S 16
他のCPUとの比較(マルチコア)
Ryzen 9 7945HX
33229
Core i9-14900HX
29314
Core i9-13980HX
28398
Core i9-13900HX
24314
Ryzen AI 9 HX 370
23929 [TUF Gaming A14]
Core i7-14700HX
21893
Core i9-13900H
19299
Core i7-13700HX
18283
Ryzen 7 7840HS
17922
Core i7-13700H
17622
Ryzen 7 8845HS
16387
Core i7-13620H
15935
Core i5-13500H
15302
Ryzen AI 9 HX 370
15245 [Zenbook S 16]
Core Ultra 7 155H
14073
Ryzen 7 7735HS
14068
Ryzen 7 8840HS
13668
Ryzen 7 8840U
12575
Core Ultra 5 125H
12239
Ryzen 5 7535HS
10356
Core Ultra 5 125U
9553
Ryzen 5 8540U
9378
Core 5 120U
9317
Core i5-1335U
8249
他のCPUとの比較(シングルコア)
Core i9-14900HX
2196
Core i7-14700HX
2113
Core i9-13980HX
2061
Ryzen AI 9 HX 370
2047 [TUF Gaming A14]
Core i9-13900H
2016
Core i9-13900HX
1968
Ryzen 9 7945HX
1951
Ryzen AI 9 HX 370
1925 [Zenbook S 16]
Core i7-13700H
1898
Core 5 120U
1879
Core i7-13700HX
1868
Core Ultra 7 155H
1810
Core i7-13620H
1806
Core i5-13500H
1785
Ryzen 7 7840HS
1764
Ryzen 7 8840U
1763
Core i5-1335U
1723
Core Ultra 5 125H
1712
Ryzen 5 8540U
1701
Ryzen 7 8840HS
1686
Ryzen 7 8845HS
1682
Core Ultra 5 125U
1597
Ryzen 7 7735HS
1538
Ryzen 5 7535HS
1463
:本製品で選択できるプロセッサー
:レビュー機で計測したスコア(他のスコアは別のPCで計測した代表値)
CINEBENCH 2024
次に、CINEBENCH 2024のスコアを下に掲載します。
こちらは、TUF Gaming A14に搭載されていたRyzen AI 9 HX 370は、Core i7-14700HXよりは低いマルチコアスコアでしたが、それでも近い数値でした。
Zenbook S 16のRyzen AI 9 HX 370は、大分スコアが落ちますが、Core Ultra 7 155Hよりは高いスコアでした。
CINEBENCH 2024
TUF Gaming A14
Zenbook S 16
他のCPUとの比較(マルチコア)
Core i9-14900HX
1748
Core i9-13900HX
1512
Core i7-14700HX
1313
Ryzen AI 9 HX 370
1226 [TUF Gaming A14]
Ryzen 9 8945HS
919
Ryzen 7 8845HS
919
Ryzen AI 9 HX 370
882 [Zenbook S 16]
Core i7-13700H
855
Core Ultra 7 155H
825
Ryzen 7 8840HS
785
Core i5-13500H
778
Core Ultra 5 125H
669
Core i7-1370P
621
Ryzen 7 8840U
618
Ryzen 7 7730U
575
Core i7-1360P
568
Ryzen 5 8640HS
553
Ryzen 5 8540U
500
Core 5 120U
491
Core Ultra 7 155U
477
Ryzen 5 7530U
477
Core i5-1335U
435
Core 7 150U
403
他のCPUとの比較(シングルコア)
Core i9-14900HX
128
Core i7-14700HX
126
Core i9-13900HX
119
Ryzen AI 9 HX 370
115 [TUF Gaming A14]
Core i7-13700H
114
Ryzen AI 9 HX 370
110 [Zenbook S 16]
Core i5-1335U
109
Core 5 120U
107
Core 7 150U
107
Ryzen 9 8945HS
106
Core i5-13500H
105
Ryzen 7 8840U
104
Core Ultra 7 155H
103
Core Ultra 7 155U
103
Ryzen 7 8845HS
101
Core Ultra 5 125H
101
Core i7-1370P
101
Ryzen 5 8540U
100
Ryzen 7 7730U
99
Ryzen 7 8840HS
98
Ryzen 5 8640HS
97
Core i7-1360P
85
Ryzen 5 7530U
84
グラフィックス関連のベンチマークスコア
次はグラフィックス関連のベンチマークスコアを掲載します。
なお、グラフィックス性能はメインメモリの速度にも影響され、メモリの帯域が広いとグラフィックス性能も高くなります。今回のPCに搭載されていたメモリは、LPDDR5x-7500で非常に広い帯域があります。
3DMark Night Raid
3DMark Night Raidのスコアは以下の通りです。「グラフィックスのスコア」の部分が、グラフィック性能を評価する指標となります。Ryzen AI 9 HX 370には、内蔵グラフィックスに「Radeon 890M」を搭載しています。なお、TUF Gaming A14はGeForce RTX 4060を搭載していますが、ここではこのRTX 4060を無効にして、CPU内蔵グラフィックスを使用するようにしています。
TUF Gaming A14の場合、かなり高いスコアで、GeForce RTX 1650に近い数値が出ています。
Zenbook S 16の場合、Core Ultra 7 155Hとほぼ同等のスコアでした。
3DMark Night Raid
~ グラフィックス性能の評価 ~
TUF Gaming A14
Zenbook S 16
他のグラフィックスとの比較(Graphics score)
GeForce RTX 3050
52196
GeForce RTX 2050
48410
GeForce GTX 1650
45149
Ryzen AI 9 HX 370
Radeon 890M(LPDDR5X)
42643 [TUF Gaming A14]
Ryzen AI 9 HX 370
Radeon 890M(LPDDR5X)
36189 [Zenbook S 16]
Core Ultra 7 155H
Intel Arc(LPDDR5)
35888
Ryzen 7 8840HS
Radeon 780M(LPDDR5X)
35847
GeForce MX550
35717
Ryzen 7 8840U
Radeon 780M(LPDDR5X)
35397
Core Ultra 5 125H
Intel Arc(LPDDR5X)
35271
Ryzen 7 8845HS
Radeon 780M(LPDDR5X)
35241
GeForce MX450
30425
Ryzen 5 8640U
Radeon 760M(LPDDR5X)
29095
Ryzen 7 7735U
Radeon 680M(LPDDR5)
28714
Core i7-1360P
Intel Iris Xe(LPDDR5)
21897
Core Ultra 5 125U
Intel Graphics(DDR5)
21525
Ryzen 5 8540U
Radeon 740M(DDR5)
20053
Core 5 120U
Intel Graphics(LPDDR5X)
18333
Ryzen 7 7730U
Radeon Graphics(LPDDR4X)
17524
Core i5-1335U
Intel Iris Xe(DDR4)
16835
Ryzen 5 7530U
Radeon Graphics(LPDDR4X)
16389
ゲーミング性能
以下、ゲームをしたときのフレームレートを掲載します。比較的軽めのゲームを選んで検証しています。
ファイナルファンタジー 14 黄金のレガシー
ファイナルファンタジー 14については、Ryzen AI 9 HX 370は、Core Ultra 7 155Hよりも低い平均フレームレートでした。
解像度
品質
TUF Gaming A14
Zenbook S 16
1920x1200
標準(ノートPC)
52 fps
49 fps
他のGPUとの比較(1920x1200 or 1920×1080、標準(ノートPC) )
Core Ultra 7 155H
(1920x1200)
56 fps
Ryzen AI 9 HX 370
(1920x1200)
52 fps [TUF Gaming A14]
Ryzen AI 9 HX 370
(1920x1200)
49 fps [Zenbook S 16]
ブループロトコル
ブループロトコルは、Core Ultra 7 155Hよりも高く、TUF Gaming A14については、Georce GTX 1650に近いスコアが出ていました。
解像度
品質
TUF Gaming A14
Zenbook S 16
1920x1200
低画質
118 fps
105 fps
中画質
65 fps
58 fps
他のGPUとの比較(1920x1200 or 1920×1080、低画質 )
Georce GTX 1650
(1920x1080)
122 fps
Ryzen AI 9 HX 370
(1920x1200)
118 fps [TUF Gaming A14]
Ryzen AI 9 HX 370
(1920x1200)
105 fps [Zenbook S 16]
Ryzen 7 8845HS
(1920x1080)
92 fps
Core Ultra 7 155H
(1920x1200)
87 fps
Ryzen 7 8840U
(1920x1200)
58 fps
Core Ultra 5 125U
(1920x1200)
55 fps
Ryzen 5 8540U
(1920x1200)
45 fps
Core 5 120U
(1920x1200)
35 fps
PSO2 ニュージェネシス
PSO2 ニュージェネシスも、TUF Gaming A14のRyzen AI 9 HX 370であれば、Georce GTX 1650に近いスコアが出ていました。。
解像度
品質
TUF Gaming A14
Zenbook S 16
1920x1200
最低
138 fps
109 fps
中
74 fps
57 fps
他のGPUとの比較(1920x1200 or 1920×1080、最低品質)
Georce GTX 1650
(1920x1080)
139 fps
Ryzen AI 9 HX 370
(1920x1200)
138 fps [TUF Gaming A14]
GeForce MX550
(1920x1080)
117 fps
Ryzen AI 9 HX 370
(1920x1200)
109 fps [Zenbook S 16]
Core Ultra 7 155H
(1920x1200)
92 fps
Ryzen 7 8840U
(1920x1200)
80 fps
Ryzen 7 8845HS
(1920x1200)
74 fps
Ryzen 5 8540U
(1920x1200)
46 fps
クリエイターソフトの処理時間
次に、クリエイター向けソフトで計測した各種処理時間を掲載します。
Adobe Lightroom Classic CCによるRAW現像時間
Adobe Lightroom Classicにおいて、100枚のRAW画像について、現像処理をして、書き出した時の時間を計測しました。
TUF Gaming A14のRyzen AI 9 HX 370であれば、Core i7-14700HXとほぼ同じ書き出し時間で、非常に高速です。また、Zenbook S 16 のRyzen AI 9 HX 370も、比較的速かったです。
Adobe Lightroom ClassicによるRAW現像時間
Core i9-13900H
RTX 4090 (150W)
38秒 [書き出しにGPUを使用をON]
Core i9-13900HX
RTX 4080 (175W)
39秒 [書き出しにGPUを使用をON]
Core i7-14700HX
47秒
Ryzen AI 9 HX 370
48秒 [TUF Gaming A14]
Ryzen AI 9 HX 370
57秒 [Zenbook S 16]
Core i7-13620H
65秒
Core i7-13700H
68秒
Core Ultra 7 155H
72秒
Ryzen 7 8845HS
77秒
Core i5-13450HX
78秒
Ryzen 7 8840HS
81秒
Core i5-13500H
80秒
Ryzen 7 8840U
87秒
Core i7-1360P
88秒
Ryzen 5 8540U
102秒
Core Ultra 5 125U
103秒
Core 5 120U
106秒
Ryzen 7 7730U
115秒
Core i5-1335U
128秒
※2022年6月より、GPUを使用した書き出しも出来るようになったので、この機能が使えるPCは、機能をONにしたときの書き出し時間も掲載しています。
※プロファイル補正、露光量+1、シャドウ+10、自然な彩度+10、ノイズ軽減+10を適用した100枚のRAWファイル(1枚あたり約45MB)を同じ書き出し設定でjpegに書き出し、所要時間を計測
:レビュー機で計測したスコア(他のスコアは別のPCで計測した代表値)
まとめ
今回、Ryzen AI 9 HX 370のプロセッサーについて、各種ベンチマークなどを計測しました。
今回計測した2台のノートPCのうち、高いCPU電力で動作するTUF Gaming A14については、Core i7-14700HXを超える高いマルチコアスコアが出ていました。低いCPU電力動作するZenbook S 16でも、Core Ultra 7 155H以上のマルチコアスコアが出ていました。
グラフィック性能についても、GeForce GTX 1650に近いベンチマークスコアが出ていました。
省電力でありつつ、CPU電力次第で高いパフォーマンスも出すことができるプロセッサーであるため、色々なジャンルのPCで、CPU電力設定を変えながら使われそうです。実際に今回テストで使用したノートPCも、TUF Gaming A14のゲーミングノートPCの場合は、CPU電力を高めにしてパフォーマンス重視の設定になっていましたし、Zenbook S 16の超薄型ノートPCの場合は、CPU電力を低めにして発熱および消費電力を抑えるような設定になっていました。もし、パフォーマンス重視でノートPCを購入する方は、想定よりも性能が出ない可能性もあるので、どのくらいのCPU電力で動作しているのか、各種レビュー記事を見たほうがいいと思います。
著者
櫻庭 尚良 (the比較 管理人)
1975年生まれ。電子・情報系の大学院を修了。
2000年にシステムインテグレーターの企業へ就職し、主にサーバーの設計・構築を担当。2006年に「the比較」のサイトを立ち上げて運営を開始し、2010年に独立。 毎年、50台前後のパソコンを購入して検証。メーカーさんからお借りしているパソコンを合わせると、毎年合計約150台のパソコンの実機をテストしレビュー記事を執筆。
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