Ryzen 7 6800HとCore i7-12700Hの比較

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ここでは、ノートPC向けのAMD Ryzen 7 6800Hと、インテル Core i7-12700Hについて、CPU性能、ゲーミング性能、コンテンツクリエイティブ性能、消費電力などを、ベンチマークや市販のソフトウェアを用いて比較します。

なお、今回検証に用いたノートPCは、代理店経由でお借りしています。

 

各プロセッサーの仕様

まずは、各プロセッサーの仕様を簡単に説明します。

ノートPC向けのプロセッサーは、ざっくりと2つに分けると、一般向けノートPCによく採用されるTDPが28W以下のプロセッサーと、ゲーミングノートPCやクリエイター向けノートPCによく採用される45Wのプロセッサーがありますが、今回比較する2つのプロセッサーは後者となります。

AMD Ryzen 7 6800Hは、6nmプロセスの「Zen 3+」のCPUアーキテクチャ、「RDNA 2」のGPUアーキテクチャを搭載し、特に内蔵グラフィックスの性能が大きく向上している点が特徴です。

インテル Core i7-12700Hは、Pコア(高性能コア)とEコア(高効率コア)の2種類が搭載さたハイブリッド・アーキテクチャを採用している点が特徴で、従来と比べてCPU性能がかなり向上しています。

Ryzen 7 6800Hの仕様
CPUアーキテクチャ Zen 3+ グラフィックス・モデル Radeon 680M
コア / スレッド 8 / 16 GPUコア数 12
基本クロック 3.2GHz グラフィックス周波数 2200MHz
最大ブーストクロック 4.7GHz メモリ 最大DDR5-4800
L3キャッシュ 16MB  
TDP 45W

Core i7-12700Hの仕様
Pコア 6 グラフィックス Intel Iris Xe
Eコア 8 GPU最大クロック 1.4GHz
Pコア定格クロック 2.3GHz GPU実行ユニット 96
Pコア最大クロック 4.7GHz メモリ 最大DDR5-4800
Eコア定格クロック 1.7GHz  
Eコア最大クロック 3.5GHz
L3キャッシュ 24MB
Processor Base Power 45W
Maximum Turbo Power 115W

 

ベンチマークの計測に利用したノートPC

今回、ベンチマークに使用したノートPCは、ASUS TUF Gaming A15(AMDモデル)と、ASUS TUF Gaming F15(インテルモデル)です。2つのノートPCは、(AMDモデルとインテルモデルの違いから)Thunderbolt4の対応の有無などの細かい違いがありますが、基本的にはプロセッサー以外はほぼ同じスペック、同じボディとなります。

ASUS TUF Gamingシリーズ
  ASUS TUF Gaming A15 ASUS TUF Gaming F15
画像
プロセッサー  Ryzen 7 6800H Core i7-12700H
グラフィックス GeForce RTX 3060
SSD 16GB
SSD 512GB
ディスプレイ 15.6インチ FHD 144Hz

 

なお、この2台のノートPCは、CPU内蔵グラフィックスを介さず、外部GPUから直接出力することで、遅延やオーバーヘッドを抑えパフォーマンスを上げる「ディスクリートモード」に対応しています。今回は、プロセッサーの比較をしたいので、グラフィックスが出来るだけボトルネックにならないように、一部の消費電力のテストを除いてディスクリートモードで計測しています。

ディスクリートモードへ変更

 

さらに、これらのノートPCは、パフォーマンスやファンの回転速度などを制御するモードがいくつか用意されていますが、こちらも、他の要因ができるだけボトルネックにならないように、最もパフォーマンスが出る「Turbo」モードにしています。

Turboモードへ変更

 

CPU性能の比較

それでは、まずは、CPU関連のベンチマークスコアを見てみます。

代表的なベンチマークソフトであるCINEBENCH R23、Geekbench 5、Passmarkの結果を見ると、マルチコアとシングルコアの両方において、Core i7-12700Hのほうがスコアが10~20%程度高いです。

CPU関連のベンチマークスコア1

 

次に、スレッド毎に処理性能を測れる3DMark CPU Profileのスコアを見ていきます。最大スレッド数ではCore i7-12700Hのほうが高いものの、16スレッドや8スレッド、4スレッドにおいては、 Ryzen 7 6800Hのほうがスコアが高くなっています。ベンチマーク提供元のUL Benchmarksの指針によると、「16スレッド以上はコンテンツクリエイティブ性能を、8スレッドはDirectX 12世代のゲーミング性能を、2~4スレッドは、DirectX 9世代の古いゲームの性能を推測するのに適している」としています。

そのため、使うアプリやゲームによっては、Ryzen 7 6800Hのほうが、高いパフォーマンスが出る可能性もあることが分かります。

CPU関連のベンチマークスコア2

 

内蔵GPU性能

次に、プロセッサーに内蔵されたグラフィックス(iGPU)の性能を確認します。

今回、GeForce RTX 3060を搭載した機種なので、この外部グラフィックスを無効化し、以下の3つの3DMarkのグラフィックススコアを確認しましたが、いずれもRyzen 7 6800Hのほうが高いスコアでした。3DMark Night Raidにいたっては、20%以上も高いスコアでした。

Ryzen 7 6800HやCore i7-12700Hを搭載するようなノートPCは、「GeForce RTX ~」といった外部グラフィックスも一緒に搭載されることが多いので、内蔵グラフィックスが使用されることはあまりありませんが、ただクリエイティブソフトによっては、外部グラフィックスを搭載していても、内蔵GPUも利用する処理もあるので、無視できない結果です。

内蔵グラフィック関連のベンチマークスコア

 

ゲーミング性能

では、気になるGeForce RTX 3060を有効にしたときのパフォーマンスを確認してみます。

まずは3DMarkのスコアを確認してみたところ、Port RoyalやTime Spyについては、スコアがほぼ変わらないものの、DirectX 11レベルの機能を利用したFire Strikeについては、Ryzen 7 6800Hのほうが4%ほどですが高いスコアが出ていました。ゲームによっては、Ryzen 7 6800Hを搭載した機種のほうが、高いフレームレートがありそうな結果です。

ゲーミング関連のベンチマークスコア1

 

続いて、実際のゲームのベンチマーク機能、もしくは実際にゲームを実行してAfterburnerで計測したときの平均フレームレートを掲載します。

ゲームによって優劣は異なる結果となったものの、どちらもそこまで大きな差はありませんでした。もし、GeForce RTX 3080などの高性能グラフィックスを搭載していれば、もう少しCPUへの依存度が高くなってきたのかもしれませんが、GeForce RTX 3060クラスのグラフィックスだと、そこまで顕著な差は出にくいのかもしれません。

ゲーミング関連のベンチマークスコア2

 

各クリエイティブソフトの処理時間

次に、動画編集や画像編集などができるクリエイティブソフトにおいて、時間のかかる処理を実行し、その処理時間を計測した結果を掲載します。グラフのバーは短いほうが速いことになります。

Davinci Resolveの動画の書き出しは、Ryzen 7 6800H搭載機種のほうがやや速かったものの、それ以外は、ほとんどCore i7-12700Hのほうが速かったです。

ただし、TMPGEnc Video Mastering Works 7のソフトを使って、内蔵GPUによるハードウェアエンコードを実行したときについては、Ryzen 7 6800Hのほうがかなり高速でした。しかも、GeForce RTX 3060によるNVENCでエンコードしたときは54秒だったので、それよりも速いエンコード時間でした。

各クリエイティブソフトの処理時間
※Lightroom Classic:プロファイル補正を適用した100枚のRAWファイル(1枚あたり約45MB)を書き出し
※Photoshop:6000x4000のRAWデータに、ニューラルフィルター(JPEGのノイズを削除)を適用
※DaVinci Resolve Studio 18 Beta:4K/30p動画(約10分)に、「テキスト」+「明るさ(カーブ)の変更」+「彩度の変更」+「トランジション」のエフェクトおよびBGMとなるオーディオを加え、MP4、H.264、2160p 4K Ultra HD、29.97 fpsで書出し
※Premiere Pro:4K/30p動画(約10分)に、「テキスト」+「露光量」+「自然な彩度」+「トランジション」のエフェクトおよびBGMとなるオーディオを加え、H.264形式、YouTube 2160p 4K Ultra HDのプリセットで書き出し
※TMPGEnc Video Mastering Works 7:XAVC Sの動画(約2分、4K)をH.265/HEVCへ変換
 x265:ソフトウェアエンコード
 内蔵GPU:Intel Media SDK Hardware(QSV)またはAMD Media SDKによるハードウェアエンコード

 

CPU温度

続いて、高い負荷をかけたときのCPU温度を確認します。

Prime95で全CPUコアの使用率が100%になる高い負荷をかけたときのCPU温度の推移をグラフにしたのが下の図です。CPU温度は、Ryzen 7 6800HとCore i7-12700Hのどちらも95℃前後で推移しており、高い温度です。ただ、ゲーミングノートの場合は、この位のCPU温度まで上がることはよくあります。また、CPU電力は、どちらも途中で極端に下がることもなく、高い数値を維持していました。

  • CPU温度
  • CPU電力
※HWiNFO64 Proで計測
※HWiNFO64 Proで計測

 

消費電力

次に、消費電力を確認します。

まずベンチマーク機能のあるゲームについて、ベンチマーク中の平均消費電力を計測しました。Ryzen 7 6800Hのほうが、消費電力がやや少ないことが多いような気はするものの、Core i7-12700Hとほとんど変わりはありませんでした。

各ゲームベンチマーク実行中の平均消費電力
※ベンチマーク実行中の消費電力を計測し平均値を算出
※RS-BTWATTCH2Aで計測(以下同様)

 

また、平均フレームレートを消費電力で割ったワットパフォーマンスについても、ほぼ変わりありませんでした。

各ゲームのワットパフォーマンス
※平均フレームレート÷平均消費電力

 

次に、クリエイティブソフトで時間のかかる処理を実行したときの、処理開始時から終了までの消費電力量(平均消費電力×使用時間)を掲載します。TMPGEnc Video Mastering Works 7によるエンコードは、Ryzen 7 6800H搭載機種のほうがやや少なかったです。他はほぼ一緒でした。

クリエイティブソフトの処理の消費電力量
※各クリエイティブソフトの書き出しなどの処理時の消費電力量

 

アイドル時の消費電力は下図の通りです。こちらは、ディスクリートモードだけでなく、MSHybridモードでも計測しています。どちらも、Ryzen 7 6800H搭載機種のほうが消費電力は少なかったです。

アイドル時の消費電力
※約1分間、約1秒毎に計測した消費電力の平均値
※画面輝度はどちらも120cd/m2

 

バッテリー駆動時間

バッテリー駆動時間も見ていきましょう。

なお、メーカー仕様値では、 Ryzen 7 6800H搭載機種が約11.3時間であるのに対し、Core i7-12700H搭載機種は約9.3時間と短くなっています。

当サイトによる計測では、動画再生のような低い負荷の場合は、下図のようにRyzen 7 6800H搭載機のほうが圧倒的にバッテリー駆動時間が長ったです。Core i7-12700H搭載機種が思ったより短かったので、念のため2度計測してみましたが、ほぼ同じ駆動時間でした。使うアプリの相性などもあるのだと思いますが、低めの負荷のときは、Ryzen 7 6800Hのほうがバッテリーはもちそうです。

FF14ベンチマークのような高い負荷をかけたときは、同じバッテリー駆動時間でした。ゲームのような高い負荷をかけたときは、バッテリー駆動時間に違いはほぼなさそうです。

バッテリー駆動時間
※動画再生:ローカルに保存した動画(解像度:720x480)を、「映画&テレビ」のアプリでリピート再生したとき
※FF14ベンチ:FF14ベンチマークをループ実行したとき

 

各プロセッサー搭載ノートPCの価格

最後に、各プロセッサーを搭載したノートPCの価格を比較します。

今回テストした2機種については、価格は同じです。ただ、先日までセールを実施しており、ASUS TUF Gaming A15のほうが1万円安く売られていました。

ASUS TUF Gamingシリーズ
  ASUS TUF Gaming A15 ASUS TUF Gaming F15
画像
価格[税込] ※ 189,800円 189,800円
※ 2022年6月15日時点の価格

 

Dellも、ボディがほぼ同じでプロセッサーが異なる機種を発売していますが、こちらは Ryzen 7 6800H搭載機種のほうが少し安くなっています。

Dell Gシリーズ
  Dell G15 Ryzen Edition Dell G15
画像
CPU Ryzen 7 6800H Core i7-12700H
グラフィックス GeForce RTX 3060
SSD 16GB
SSD 512GB
ディスプレイ 15.6インチ FHD 165Hz
価格[税込] ※ 179,984円 187,983円
※ 2022年6月15日時点の価格

 

レノボからも、ちょうどこの記事を執筆している最中に、2つのプロセッサーの機種が発売されましたが、こちらもRyzen 7 6800Hを搭載した機種のほうが安かったです。

IdeaPad Gaming 3シリーズ
  IdeaPad Gaming 370 IdeaPad Gaming 370i
画像
CPU Ryzen 7 6800H Core i7-12700H
グラフィックス GeForce RTX 3050 Ti
SSD 16GB
SSD 512GB
ディスプレイ 16インチ WUXGA 165Hz
価格[税込] ※ 155,474円 166,320円
※ 2022年6月17日時点の価格

 

ドスパラは、まだこれらのプロセッサーを搭載した機種を発売していませんが、旧世代のプロセッサーでは、Ryzen搭載モデルのほうが安かったので、おそらく新プロセッサー搭載モデルもRyzenを載せたPCのほうが安くなると思われます。

 

まとめ

今回、Ryzen 7 6800HとCore i7-12700Hの比較を行いました。

CINEBENCH R23やGeekbench 5などの定番ベンチマークソフトの結果を見ると、Core i7-12700Hのほうがややスコアが高いです。また、コンテンツクリエイティブ性能についも、Core i7-12700Hのほうが処理がやや速い傾向がありました。

しかし、ゲーミング性能についてはほぼ差はなく、内蔵GPUによるハードウェアエンコードなどはRyzen 7 6800Hのほうがかなり速かったです。

さらにアイドル時の消費電力についても、Ryzen 7 6800Hのほうが少なかったです。ノートパソコンは、アイドル状態で放置していることも多いと思うため、電気代の面では、Ryzen 7 6800Hのほうが有利かなと思います。

本体価格も、Ryzen 7 6800H搭載機種のほうが安い傾向があり、トータルコストも、Ryzen 7 6800H搭載機種のほうが安くなると思われます。

なお、今回のテストは、ディスクリートモードにし、最大のパフォーマンスが出るTurboモードで計測しました。PCの設定を変えるとまた結果が異なる可能性があります。また、搭載しているグラフィックスやSSD、メモリ、筐体の冷却性能などにもよってパフォーマンスは変わってきますので、その点はご了承下さい。

 

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