AMD Ryzen 5 7530Uとインテル Core i5-1235Uの比較

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ここでは、一般向けノートPCに多く採用されているAMD Ryzen 5 7530Uと、インテル Core i5-1235Uについて、CPU性能、内蔵グラフィック性能、コンテンツクリエイティブ性能、消費電力などを、ベンチマークや市販のソフトウェアを用いて比較します。

 

各プロセッサーの仕様

まずは、各プロセッサーの仕様を簡単に説明します。

ノートPC向けのプロセッサーは、大雑把に分けると以下の4つに分類されます。この中で、今回は、一般家庭用またはビジネス用ノートPCによく採用されているTDPが15WクラスのAMD Ryzen 5とインテル Core i5のプロセッサーについて比較します。

ノートパソコン向けプロセッサーの分類
TDP 用途
55W 超高性能ゲーミングノートPC / クリエイターノートPC
45W 一般向けゲーミングノートPC / クリエイターノートPC
28W 一般向けノートPC
15W 一般向けノートPC / 薄型・軽量ノートPC

 

AMDのプロセッサーは、最新のRyzen 7000シリーズのRyzen 5 7530Uですが、Zen 4ではなくZen 3世代のプロセッサーとなっています。

インテルのプロセッサーについては、最新のプロセッサーは第13世代ですが、15Wクラスのプロセッサーを搭載したノートPCが、執筆時点ではまだ発売されていなかったため、今回は第12世代のCore i5-1235Uを比較対象とします。

なお、執筆がほぼ終わった後に、第13世代Core i5-1355Uを搭載したPCも発売されましたが、価格がかなり高かったため、Ryzen 5 7530Uの比較対象にはならないでしょう。

各プロセッサーの仕様は次のようになっています。

Ryzen 5 7530Uの仕様
CPUアーキテクチャ Zen 3 グラフィックス・モデル Radeon Graphics
コア / スレッド 6 / 12 GPUコア数 7
基本クロック 2.0GHz グラフィックス周波数 2000MHz
最大ブーストクロック 4.5GHz 最大メモリ LPDDR4x-4267
L1キャッシュ   384KB   DDR4-3200
L2キャッシュ   3MB  
L3キャッシュ 16MB  
TDP 15W  

Core i5-1235Uの仕様
Pコア 2 グラフィックス Intel Iris Xe
Eコア 8 GPU最大クロック 1.2GHz
Pコア定格クロック 1.3GHz GPU実行ユニット 80
Pコア最大クロック 4.4GHz 最大メモリ LPDDR5-5200
Eコア定格クロック 0.9GHz DDR5-4800
Eコア最大クロック 3.3GHz  
L3キャッシュ 12MB
Processor Base Power 15W
Maximum Turbo Power 55W

 

ベンチマークの計測に利用したノートPC

今回、ベンチマークに使用したノートPCは、レノボ IdeaPad Flex 5 Gen 8 14型(AMD)と、デル Inspiron 14 2-in-1(Intel)です。細かい仕様は異なりますが、どちらも14型FHD+液晶を搭載した2 in 1 PCで、メモリおよびSSDの容量は揃えています。

なお、デル Inspiron 14のメモリは8GBだったため、16GBへ換装しています。また、メモリの帯域を実測したところ、レノボ IdeaPadはLPDDR4X-4266を搭載していますが、約30GB/sであったのに対し、デル Inspiron 14はDDR4-3200でも約38GB/s出ており、レイテンシも短かったです。そのため、ベンチマークによっては、デル Inspiron 14に搭載されているCore i5-1235Uのほうがやや好結果が出る可能性があるので、そのあたりを加味してご覧ください。

検証に用いたノートPC
  レノボ
IdeaPad Flex 5 Gen 8
14型(AMD)
デル
Inspiron 14 2-in-1
(Intel)
画像
プロセッサー Ryzen 5 7530U Core i5-1235U
メモリ 16GB 16GB ※
SSD 512GB PCIe SSD
ディスプレイ 14インチ FHD+
※1 デル Inspironのメモリについては、8GBから16GBへ換装
レノボ IdeaPadのPCは購入品、デル InspironのPCは貸出機

 

CPU性能の比較

それでは、まずは、CPU関連のベンチマークスコアを見てみます。

代表的なベンチマークソフトであるCINEBENCH R23、Geekbench 6、Passmarkの結果を見ると、マルチコア性能については、Ryzen 5 7530Uのほうがやや高い傾向ですが、シングルコア性能については、Core i5-1235Uのほうがやや高いです。

CPU関連のベンチマークスコア

 

リアル作業の快適性

次に、PCMark 10のスコアについて掲載します。このベンチマークソフトは、Webページ閲覧、動画視聴といった日常的な操作の快適性の指標となる「Essentials」、文書作成、表計算の使用といった仕事の快適性の指標となる「Productivity」、画像編集、3D CG制作、動画編集といったクリエイティブ作業の快適性の指標となる「Digital Content Creation」の3つについて数値化し、よりリアルな作業の快適性について知ることができます。

いずれのテストにおいても、Core i5-1235Uより、Ryzen 5 7530Uのほうが高いスコアが出ていました。

PCMark 10の各スコア

 

内蔵GPU性能

次に、プロセッサーに内蔵されたグラフィックス(iGPU)の性能を確認します。

3DMark Wild LifeだとCore i5-1235Uのほうが高いスコアでしたが、3DMark Night RaidだとRyzen 5 7530Uのほうが高いスコアです。GFXbenchは2つ計測しましたが、Asztec RuinsだとCore i5-1235Uのほうがスコアが高く、マンハッタンだとRyzen 5 7530Uのほうがスコアがやや高かったです。

内蔵グラフィック関連のベンチマークスコア

 

ゲーミング性能

CPU内蔵のグラフィックは、基本的にはゲーム向きとは言えませんが、近年は性能も高くなってきているので、軽いゲームならできなくもありません。ここでは、ベンチマーク機能が付いたいくつかのゲームについて、ベンチマークスコアを計測してみました。

FF14についてはほぼ同じスコアでしたが、ドラクエXやPSO2については、Ryzen 5 7530Uのほうが高いスコアでした。

なお、APEXやフォートナイトも試しにプレイしてみましたが、グラフィック設定をかなり下げても、カクつくことが多くゲームが快適に出来るとは言えなかったので、ゲームをするなら、外部グラフィックスを搭載したノートPCがおすすめです。 

ゲーミング関連のベンチマークスコア

 

各クリエイティブソフトの処理時間

次に、動画編集用や画像編集用クリエイティブソフトにおいて、時間のかかる処理を実行し、その処理時間を計測した結果を掲載します。グラフのバーは、今までとは異なり、短いほうが速いこと(優秀ということ)になります。

数年前までは、Ryzenプロセッサーよりもインテルのほうが、クリエイティブソフト向きである傾向がありましたが、今回試したテストについては、Ryzenに内蔵されているハードウェアエンコードが優秀なためか、むしろRyzenプロセッサーのほうが速いケースが多かったです。

各クリエイティブソフトの処理時間
※Lightroom Classic:プロファイル補正を適用した100枚のRAWファイル(1枚あたり約45MB)を書き出し
※Photoshopスーパーズーム(x2)):6000x4000のRAWデータに、ニューラルフィルター(スーパーズーム(x2))を適用
※Photoshop(JPEGのノイズを削除):6000x4000のRAWデータに、ニューラルフィルター(JPEGのノイズを削除)を適用
※Premiere Pro:4K/30p動画(約10分)に、「テキスト」+「露光量」+「自然な彩度」+「トランジション」のエフェクトおよびBGMとなるオーディオを加え、H.264形式、YouTube 2160p 4K Ultra HDのプリセットで書き出し
※TMPGEnc Video Mastering Works 7:XAVC Sの動画(約2分、4K)をH.265/HEVCへ変換
 x265:ソフトウェアエンコード
 内蔵GPU:Intel Media SDK Hardware(QSV)またはAMD Media SDKによるハードウェアエンコード

 

ワットパフォーマンス

次に、ワットパフォーマンスを確認します。

今回、下記ベンチマークを実行し、その処理中の消費電力量を求め、ベンチマークスコア÷消費電力量でワットパフォーマンスを計算しました。消費電力量の計測には、ワットチェッカー「RS-BTWATTCH2A」を用い、ノートパソコン全体の消費電力を計測しています。機種が違うため、正確な比較にはならないものの、アイドル時はほぼ同じ消費電力だったので、ある程度は参考になると思います。

FF14のベンチマークについては、Core i5-1235Uのほうが高いワットパフォーマンスでしたが、CINEBNCH R23とドラクエXについては、Ryzen 5 7530Uのほうが高いワットパフォーマンスでした。

各ゲームのワットパフォーマンス
※ベンチマークスコア÷消費電力量

 

価格

最後に、価格を確認します。

出来る限り同じ構成にして、価格を比較したものが下の表です。Core i5-1235U搭載PCのほうが、メモリが8GBと少ないにも関わらず、価格はRyzen 5 7530U搭載PCのほうが6千円ほど安くなっています。これに増設した8GBメモリ分の価格を加味すると、約1万円はRyzen 5 7530U搭載PCのほうが安いです。

なお、執筆時点では、15Wのインテル第13世代Coreを搭載したPCがまだ発売されていませんでしたが、執筆がほぼ終わった時点で、インテル第13世代Core i5-1335Uを搭載したPCの発売が開始されました。ただ、Core i5-1335Uを搭載したInspiron 14 2-in-1は、149,980円もし、Ryzen 5 7530U搭載PCとは価格差が5万円以上もあり、購入者の比較対象とはなりにくいです。

価格の比較
  レノボ
IdeaPad Flex 5 Gen 8
14型(AMD)
デル
Inspiron 14 2-in-1
(Intel)
画像
プロセッサー Ryzen 5 7530U Core i5-1235U
メモリ 16GB 8GB ※1
SSD 512GB PCIe SSD
ディスプレイ 14インチ FHD+
価格 ※2 94,820円 100,581円
※1 デル Inspironのメモリについては、テスト時は、8GBから16GBへ換装しています
※2 価格は2023年3月30日調べ

 

まとめ

今回、様々なベンチマークソフトや、実際のソフトウェアによる処理時間を計測し、インテル Ryzen 5 7530UとAMD Core i5-1235Uの比較を行いました。

シングルコア性能についてはCore i5-1235Uのほうがやや優秀かなと思いましたが、マルチコア性能および内蔵エンコーダーの性能は、Ryzen 5 7530Uのほうがやや優秀かなという印象を受けました。

リアル作業の快適性を示すPCMark 10の結果や、実際の市販ソフトの処理時間を見ても、Ryzen 5 7530Uのほうが好結果であることが多かったように思われます。

一般的に市場価格はRyzen 5 7530U搭載PCのほうが、Core i5-1235U搭載PCよりも安くなっているケースが多いようです。今回の調査では同じ2 in 1タイプのPCで6000円近くの値差がありました(メモリ容量を勘案すると実質約1万円差!)。パフォーマンスの優位性に加えて、10万円前後のモデルにおける約6000円の価格差は、AMDプロセッサーモデルを選ぶ際の大きなポイントになると筆者は感じます。

また、インテル第13世代Coreを搭載したモデルも登場しましたが、販売価格が15万円前後という点においても、AMD Ryzen 5 7530U搭載の本機のほうが、おすすめと言えます。

ただ、Core i5-1235Uも決して見劣りするわけではなく、一般用途であれば十分な性能です。

 

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