プロの絵描きによるSurface Pro 6 と iPad Pro の評価

更新日:2019年1月23日

Surface Pro 6、新型iPad Pro(2018年モデル)について、4名のイラストレーターさんや漫画家さんなどに、実際にイラストを描いてもらい、ペンの描き心地などを評価してもらいました。

ペン使用レビュー概要

まずは、10点満点で付けてもらった点数と評価概要を掲載します。

評価概要
  Surface Pro 6
iPad Pro 12.9インチ
イラストレーター
松岡
8点
OSがwindowsなので普段からWindowsマシンでイラストを作成している方にとっては優秀なサブ機となる。ペンに使用する単6電池はあまり見かけない規格なので常備しておきたい。
9点
進化したアップルペンシル。充電、ペアリング方法が改善。ペンをiPad本体にマグネット吸着することで本体の充電とともにペンの充電も行えるようになり見た目もよりスマートに。ペン先の感触はまだ固く感じる。
漫画家
刀野
9点
・新型になるたびキックスタンドがどんどん良くなる、ペンも昔と比べ物にならないくらい描きやすい
・それなりに性能のある普通のパソコンなので長時間描いてるとホカホカになるので手が蒸れる
8点
・全体的に前モデルの良くなかったところが改善されている(ペンの長さが短くなったところやベゼルレス化など)
・iOSはファイル管理が面倒。
イラストレーター
Chiga
8点
筆圧感知が良い点、キックスタンドが優秀で好きな角度に調整可能できる点、外部端子が充実している点、アプリケーションが充実している点がメリット。
Surfaceペンが電池式で、重心がペン後部にある点はデメリット。
9点
思いついたらすぐに描ける起動の速さと手軽さと、描画精度が高く、遅延がほとんどない点がメリット。
傾斜台が別に必要な点と、ApplePencilがスリムなので手が疲れやすい点がデメリット。
ゲーム3Dアーティスト 山本
8点
Windows OSで各種ソフトが使えることが大きな魅力の一つですが、最低でも256GB、メモリ8GB、Corei5の構成、できればそれ以上のスペックが必要と感じました。 サブマシンとして活用する前提で25~30万の予算を組めるならば、こちらを選ぶのもありです。
9点
ペンの改良点がすばらしく、持ち歩くスケッチツールとして考えるならば、現時点では最良のモデルと感じました。メモリ容量が選べない点と使いたいアプリによって不自由な点があることから、10点寄りの9点としました。

 

イラストレーター 松岡氏 の評価

名前:松岡 慧

週刊誌漫画家のアシスタント、スチールカメラマンを経て現在はフリーのイラストレーター。主にCMの絵コンテライターとして活動する傍ら、商品パッケージイラストや電子書籍の表紙イラストなども手がけます。

Surface Pro 6の評価

評価

タブレットとノートPC、状況に応じて2つのスタイルを使い分けることができるのは最大のメリットです。普段からPCで使い慣れたアプリケーションをタブレットモードで使用でき、外出先でもメインPCと共有したデータやタブレット本体に保存したデータを加筆、修正ができます。

キックスタンドの可動範囲もかなり広いので、様々なシーンに対応して描けるのもありがたいです。

ペン先の感触は柔らかく描き心地も滑らか。筆圧感知、傾き検知ともに十分な性能です。

しかし改善されたとはいえ、ペン先が浮いた状態でのホバーカーソルのズレはやはり気になります。ペン先がモニターに接したタイミングでカーソルが瞬間移動してくることがあるので、カーソルを見て描く人には注意が必要でしょう。またペンを高速で動かすと描画のズレが、ゆっくり動かすとジッターが目立ちます。

Surface Pro 6で描いたラフ画(松岡氏)

iPad Pro 12.9インチの評価

評価

本体の起動から描き始めまでの速度は圧倒的です。ちょっとしたメモ書きから本格的なイラストの作成まで、あらゆる場面で活躍できるでしょう。

ごく僅かに視差ズレを感じますが、ペンの反応速度は抜群で狙った通りの線が引けます。ペン側面をダブルタップすることでカラーパレットの表示や、ツールの切り替えなどの操作が可能になっており、サイドボタンと違い指先に力を加える必要がないので慣れてしまえば非常に扱いやすいです。欲を言えばもっと多くのジェスチャーを用意して欲しいところですね。

前モデルではペン後方にあった重心がバランスよく改善され、ペン本体も軽くなっています。OSがモバイル用なのでPCとのデータ共有にはワンクッション必要ですが、各種クラウドサービスを利用すればクリアできる問題でしょう。

とにかく直ぐに絵が描きたい、これ一台で完結させたいという方にはこちらをオススメします。

iPad Proで描いたラフ画(松岡氏)

 

 

漫画家/ゲームグラフィックデザイナー 刀野氏 の評価

名前:刀野久憲(twitter:@h_natano

アンソロ漫画とゲームのグラフィックや2Dモーションなどを制作。最近はKADOKAWA刊 艦隊これくしょんアンソロジーコミック 横須賀鎮守府編によく載ってます。普段はやかましい強火のオタク。

Surface Pro 6の評価

評価

新型になるたびにキックスタンドがどんどん良くなるので、好きな角度で立てて置きやすくなります。私は傾斜が付いてるほうが描きやすいのでありがたい限りです。

私物ではワコムのBAMBOO Inkを使っており、純正ペンを久しぶりに使ったのですが、昔と比べてすごく描きやすくなっていておどろきました。描き味が柔らかめなのが好きなところです。純正ペン買っちゃおうかな。旧機種より描画中の誤タッチなどが起きにくくパームリジェクションも少し優秀になってる気がします。あとやはり勝手知ったるウィンドウズなのでファイルの扱いとかは慣れたもので十分メインにも使えるタブレットだと思います。

デメリットとしてはやはり普通のパソコンなので長時間描いてるとホカホカになって手が蒸れてくるところが大きいです。性能アップで下位機種でもi5になったのでこの傾向は大きくなりそう。傾き検知で描画がずれる現象はまだ少しあり、自分的にそんなになくても困らないので、傾き検知はオフにしてもいいです。

Surface Pro 6で描いたラフ画(刀野久憲氏)

iPad Pro 12.9インチの評価

評価

新型はベゼルレス化やペンシルの充電仕様変更などいろいろな大変更がありましたが、個人的に一番おっ!と思ったのはペンシルの長さが短くなったところです。前のペンシルは私物でも持っているのですが、菜箸みたいな長さでバランスが取りにくく、重さの割には手が疲れる印象がありました。今回のペンシルは普通のシャープペンシルのような長さなので、すごく手に馴染みます。あとは画面へのあたりがもう少し柔らかくなってくれると嬉しい(すごくカツカツ当たる)

ただ、レビュー機をお借りしている間に少し仕事の作業などにも使用してみて、描画性能は申し分ないのですが、iOSでのファイル管理がすごく面倒なので大量に差分や素材画像を捌くのには向かず、自分的にはまだiPadはメインマシンにはできないかなと思いました。

iPad Proで描いたラフ画(刀野久憲氏)

 

 

イラストレーター Chiga氏 の評価

名前:Chiga(twitter:@chiga_illust

フリーでイラスト、漫画を制作。男性はもちろん女性から見ても可愛いと思える女の子イラストが得意。普段は、デスクトップPC(Windows)に、液晶タブレット wacom cintiq13HDを使用。仕事の依頼はこちら

Surface Pro 6の評価

評価

視差や遅延はほとんど気にならない程度で、Surfaceペンのボタンによるツール切り替え機能と、後部の消しゴムも便利。筆圧感知の精度も高く、描き心地も良いです。

あえて難点をあげるとすれば、ペンが電池式で後部にあるためわずかに重量を感じる点でしたが、それも描いていて気になるレベルではありませんでした。Windows PCであるため、アプリケーションの幅広さと、外部端子の充実は、データのやり取りや他のアプリケーションとの連携を想定したときの大きなメリットです。専用のタイプカバーですが、筆者は普段ワイヤレスキーボードを横において作業しているため、接続したまま絵を描くのはやや煩わしさを感じました。

Surface Dialはクリエイティブ面に特化しているだけあって、イラストを描く際に重宝するショートカットがカバーされていて、役立つアクセサリでした。 欲を言えばSurfaceペン同様こちらも電池式なので、長期的に使用するなら充電式だとありがたいかと思いました。

Surface Pro 6で描いたラフ画(Chiga氏)

iPad Pro 12.9インチの評価

評価

描き心地は、視差もほとんどなく筆圧感知も精密です。応答速度も良く、ひっかかりもなくサラサラと描けるのでスケッチに重宝しそうです。
今回絵を描いていて好みが分かれると思ったのは、ApplePencilの細さです。筆者の場合、細めのペン軸と全体の硬さは長時間使用していると手が疲れやすかったです。

もし長期的に使用するならグリップをつける等の対策を考えたいですが、そうなってくるとダブルタップ機能やワイヤレス充電に邪魔にならないものでないとならないので、対応できるグリップも限られてきそうです。

iPad Pro 12.9インチは、画面が大きいのでアプリ内で両サイドにパレットを出した状態でもキャンバススペースが十分にとれます。そのため、ナビゲーターツールでイラスト全体を見ながら細部を書き込むこともできます。絵を描くのに十分なサイズがありながら軽量なので、様々なシーンで活躍してくれそうです。

 

【iPad Pro 11インチについて】

iPad Pro 11インチも使用してみましたが、まさに「丁度良いサイズ感」というのが第一印象。持ち運びやすく外出先で取り出しても邪魔にならない、かといって小さすぎて絵を描くのに困るほどでもない、ちょうどいいバランスの大きさという印象でした。

ただし、筆者はCLIP STUDIOを使用しましたが、パレットを出した状態で描くとキャンバススペースが限られてくるため、その都度パレットをしまう等の工夫が必要だと感じました。

 

【Smart Keyboardについて】

iPadPro用のSmart Keyboardは、ApplePencil同様取りつけるだけでペアリングがされすぐに使用できるのですが、スタンドの角度は画面が立った状態の2パターンなので、こちらに接続して描くのには向いていないかと思われます。

iPad Proで描いたラフ画(Chiga氏)

 

 

ゲーム3Dアーティスト 山本氏 の評価

名前:山本

ゲーム会社勤務の2D/VFXアーティスト。コンシューマーゲームエフェクトを制作。主に、社内開発ツールや、Adobe Photoshop、After Effecs、Illustrator、Mayaなどを使用。仕事の依頼はこちら

Surface Pro 6の評価

メリット

■稼働音は良好。本体熱もまずまず
静音で、本体は充電時や高負荷の作業を行った際に少し熱を持つ程度でした。

■ディスプレイはsRGBモードを設定可能
sRGBモードを設定することができ、カバー率も高く、ディスプレイの色誤差も少なく発色が良いです。 色補正作業を行ったあとでEIZOモニタで確認したデータにも大きな問題はありませんでした。

■キックスタンドを搭載
Surfaceシリーズの強みであるキックスタンドの調整がしやすく、対応角度、強度ともに作業時も問題はありません。

■スペックが高い
搭載できるメモリとストレージが大きめなので、Max構成にすれば、メインマシンがダウンした時のサブ機としても使えそうです。

デメリット

■純正のキーボードカバーがBluetooth非対応
推奨のキーボードカバーがBluetooth非対応です。絵を描く際にはキーボードが分離した状態で使える方が良いため、Bluetoothに対応し無線で使えると良かったです。キーボードを別に用意するのも手かもしれません。

■OSとソフト挙動が重い
OSとソフト挙動が重いです。 CLIPSTUDIOその他、重いアプリケーションやデータを扱う場合は、CPUやメモリをMax構成にしたほうがいいと思います。

■カーソルのズレなどがある
Surface側のペン設定項目で、傾き検知をONにしておくと、カーソルのズレ、描画遅延、動作遅延が発生することがありました。⇒傾き検知をOFFにし、ペイントソフト側の調整である程度はカバーできます。

■ペン本体が重い
ペン本体が重いです。電池式なので重さ自体は変えようがありませんが、グリップなどで調整はできます。

■自動でWindowsアップデートで再起動する
アップデートの制御を手動で行いたいので、Windows 10 Proに変えられるカスタムがあれば良かったです。

CLIP STUDIO PAINT EXを使ってみた感想

基本的にはPC版がそのまま画面内で表示されるため、作業レイアウトの最適化コストも低く、導入しやすいです。Surface Dialにも対応していますので、ショートカットデバイスとしての使用が可能です。ただし、 今回試用したマシンでは、公式の動作環境は満たしているものの、動作がもったりとしてしまい、ストレスを感じる状態でした。

Surface Pro 6で描いたラフ画(山本氏)

iPad Pro 12.9インチの評価

メリット

■稼働音と本体熱は優秀
稼働音と本体熱は、どちらも非常に優秀です。

■ディスプレイも優秀
映り込みが低減し、より扱いやすくなりました。色域も広いです。

■Apple Pencil 2が使いやすくなった
旧型と比較して長さが短くなって重心が下がったことにより、小さめの手でも書き心地が良いです。 公式では旧型と重量が同じになっていますが、若干(2~3g程度だと思います)軽く感じます。充電もワイヤレスになったため余分なパーツがなくなり、とにかく扱いやすくなりました。

■処理速度が速い
CPU速度向上により、重いPSDデータを開く時間も速くなりました。旧型の所要時間記録が残っていませんでしたが、同じデータを使用しても体感でかなり速い印象を受けました。※処理負荷確認用のPSDデータを使用して検証。

■本体がスリム
旧型と比較してスリムになったこと、ボディにエッジがあることで、手を滑らせて落下するリスクが減って嬉しいです。

デメリット

■メモリが大容量ではない
メモリが大容量ではないため、キャンバスサイズや解像度によってレイヤー数に制限があります。⇒重すぎるファイルは扱えないものと思っておいたほうが無難です。

■純正のキーボードカバーがBluetooth非対応
絵を描く際にはキーボードが分離した状態で使える方が良いですが、それができません。⇒カバーはカバーのみとし、キーボードを別に用意するのも手かもしれません。

■スタンドがない
傾斜をつけるスタンドが、本体にはありません。自分で傾斜をつけるか、用途にあったスタンドを購入するといいでしょう。

■色域による色の差がある
P3広色域はsRGBよりも広いため、sRGBモニタでの確認時に、わずかな色のニュアンス差が出ます。ただし、致命的なものではありませんので、好みの問題になります。

■ペン描画時のタッチ感触はやや硬め
表面もペンの感触も硬めなので、人によっては手が疲れてしまいます。⇒フィルムを貼って、タッチの感触を変えてみましょう(ペーパーライクフィルム等)。⇒ペンにグリップをつけてみるなど、カスタムするのもありでしょう。

■文字化けするケースがあった
ProcreateのPSDデータをWin10のPhotoshopで開くと、レイヤー名が文字化けしました。

CLIP STUDIO PAINT EXを使ってみた感想

PC版に慣れていれば基本的には同じ仕様なので、ディスプレイサイズに合わせたUIにカスタムさえすれば使えます。クラウド同期ができるので、PCで作業していたデータをそのままタブレットでも作業できるでしょう。

ただし、実務作業をしようと思ったら、デスクトップPCに比べて圧倒的に画面が狭い上、アプリ版のUIレイアウト、UIフォントサイズ調整などを最適化しないことには始まらないし、そのコストが予想以上と感じました。また、PC版で使えるタブメイト(ショートカットデバイス)が使用できないため、ショートカットの再構築も必要です。漫画の作業などで、ツールUIの占める割合が増える作業をこなすには、準備期間が必要です。PC~アプリ間でのファイルのクラウド同期に関しても動作が不安定なところがありました。実際に使うとしても、しばらくは様子見をしながら使っていくことになりそうです。

iPad Proで描いたラフ画(山本氏)

 

 

まとめ

以上が、プロのイラストレーターさん等によるSurface Pro 6 とiPad Pro の評価です。

ペン性能だけ見るとiPad Proがやや優れているという意見が多く、Windows PCとの連携や、対応アプリの多さ、ファイル管理のしやすさなど総合的な扱いやすさはSurface Pro 6のほうが優れているというような意見が多いように感じられました。

これからタブレットでイラストを描いてみたいという方の参考になれば幸いです。

 

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